薄毛の最も多い原因である男性型脱毛(AGA)の治療は、日本皮膚科学会の出している治療ガイドラインでは、ミノキシジルの外用が男女ともに推奨度Aとされていますが、フィナステリド内服は男性のみに推奨度Aとなっています。女性には使用できません。その他にも医薬部外品や化粧品の育毛剤の外用が内容により推奨度C1となっていますが、そのほとんどが女性に対する有効性については不明です。その点でも、PRPによる治療は性差に関係なく用いることのできる治療法と考えています。
 また、円形脱毛症も患者罹患率が高く、自然に治癒する場合もありますが、長期にわたった場合には難治になるといわれています。こちらも治療ガイドラインでさまざまな治療が取り上げられていますが、 AGAと違い、推奨度Aの治療はありません。ステロイドの局所注射や局所免疫療法が推奨度B、ステロイドの内服・外用や抗アレルギー薬の内服、カツラなどが推奨度C1となっています。推奨されている治療の中には薬の副作用などのリスクが大きいと考えられるものもあります。
 私が報告した以降も、PRPを毛髪治療に使用して有用であったという報告が出てきています。PRPは自己由来の物質であることからも安全性が高いため、薄毛治療の社会的ニーズが高まってきている中で、男性にも女性にも安全に用いることのできる治療法は少ないですから、今後、PRPは性差なく安心して使用できる有効な治療法の1つになっていくと考えられます。
 近年、国内外での研究から様々な成長因子が毛髪の成長と毛周期のレギュレーターとして毛包に働くことがわかってきました。具体的には、血管新生作用で毛包周囲の血流改善や毛包組織を活性化させたりするVEGF、毛包幹細胞を毛包組織へと分化誘導させるPDGF、成長期を維持する作用のあるIGF-1、上皮系毛包細胞の分化増殖を促すEGF、HGF、KGFなどがあります。
 PRPにはこのような増殖因子が多く含まれていますので、薄毛の気になる頭皮にPRPを投与することで、毛髪治療につながるのではないかと考え、2009年にPRPとDDSをヒトの頭に投与するという臨床試験を実施しました。その結果、毛髪の成長が促進され、薄毛治療に有用であるという結果を得て、2011年に国際毛髪学会の機関紙でもあるDermatologic Surgeryに発表させていただきました。


 PRPは多血小板血漿(Platelet-rich plasma)の略号で、 自分自身の血液を遠心分離して得られる血小板を多く含む 血漿のことをいいます。血小板には細胞増殖や血管新生、 組織形成を促す様々な成長因子と呼ばれる物質が豊富に含まれています。
 たとえば、血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor: PDGF)、トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor: TGF)、上皮増殖因子(epidermal growth factor: EGF)、インシュリン様成長因子(insulin-like growth factor: IGF)、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)、ケラチノサイト増殖因子(keratinocyte growth factor: KGF)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor: FGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor: HGF)などが知られています。
 PRPとして傷や慢性炎症の部分に投与することによって、組織修復や再生過程を促進することが分かってきており、形成外科や皮膚科、整形外科、歯科口腔外科などの多くの分野で基礎研究と臨床応用が進んでいます。 自分自身の成分から作られるということで安全性が高く、末梢血採血という患者さんに負担の少ない手技で得られることからも注目されています。
 当センターではPRP療法をしわやたるみなどに対する皮膚の若返りと、毛髪再生治療、創傷治療に用いています。 PRPは京セラメディカルのセルリッチ(CellRich)という キットを用いて作成しています。
 PRPは自分の血液成分を用いるため、安全性が高いことが利点ですが、人によって(血液の状態によって)効果が左右されるという欠点もあります。
 また、その成長因子の一部は壊れやすく、効果が長期間続かないという欠点もあります。
 そこで、当センターではフラグミン®とプロタミンから作るマイクロパーティクルと呼ばれるドラッグデリバリーシステム(DDS)を併用して、PRPの効果をより高める工夫をしております。
当センター長が過去にPRPとDDSについての基礎研究や創傷治癒、皮弁生存域の向上、育毛治療の研究を行っており、効果と安全性を報告しています。


 DDSはドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System)の略号で、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムのことをいいます。 様々な形態がありますが、当センターでは既存の医薬品であるフラグミン®とプロタミンから作るマイクロパーティクルと呼ばれるDDSを利用しています。
 このマイクロパーティクルとPRPについては、当センター長が過去に基礎研究や臨床研究を行っており、 効果と安全性を確認しております。

1. Takikawa Megumi, Nakamura Shin-Ichiro, Nakamura Shingo, Nambu Masaki, Ishihara Masayuki, Fujita Masanori, Kishimoto Satoko, Doumoto Takashi, Yanagibayashi Satoshi, Azuma Ryuichi, Yamamoto Naoto, Kiyosawa Tomoharu. Enhancement of Vascularization and Granulation Tissue Formation by Growth Factors in human Platelet-Rich Plasma containing Fragmin/Protamine Microparticles. Journal of Biomedical Materials Research Part B: Applied Biomaterials 2011; 97(2):373-380.

2. Takikawa Megumi, Sumi Yuki, Ishihara Masayuki, Kishimoto Satoko, Nakamura Shingo, Yanagibayashi Satoshi, Hidemi Hattori, Azuma Ryuichi, Yamamoto Naoto, Kiyosawa Tomoharu. PRP&F/P MPs improved survival of dorsal paired pedicle skin flaps in rats. Journal of Surgical Research 2011; 170(1):189-196.

3. Takikawa Megumi, Nakamura Shin-Ichiro, Nakamura Shingo, Ishihara Masayuki, Kishimoto Satoko, Sasaki Kaoru, Yanagibayashi Satoshi, Azuma Ryuichi, Yamamoto Naoto, Kiyosawa Tomoharu. Enhanced Effect of Platelet-Rich Plasma Containing a New Carrier on Hair Growth. Dermatologic Surgery 2011; 37(12):1721-1729.

4. 瀧川恵美, 中村伸吾, 東隆一, 山本直人, 清澤智晴. 多血小板血漿(PRP)の有用な活性化の方法~塩化カルシウム法と凍結融解法との比較~. 日本形成外科学会雑誌 2012; 32(7): 445-449.

5. 瀧川恵美, 清澤智晴、中村伸吾,岸本聡子, 石原雅之. 多血小板血漿含有フラグミン・プロタミン微粒子を用いた組織再生に関する研究(総説). 防衛医科大学校雑誌 2012; 37(4): 257-266.

6. 瀧川恵美, 東隆一、清澤智晴. 【第II編 毛髪再生医療の最先端】 第5章 多血小板血漿(Platelet rich plasma : PRP)の育毛効果. 育毛治療の最前線.前田憲寿監修 シーエムシー出版 2013; p155-161.

7. Takikawa Megumi, Ishihara Masayuki, Takabayashi Yuki, Sumi Yuki, Takikawa Makoto, Yoshida Ryuichi, Nakamura Shingo, Hattori Hidemi, Yanagibayashi Satoshi, Yamamoto Naoto, Kiyosawa Tomoharu. Enhanced healing of mitomycin C-treated healing-impaired wounds in rats with PRP-containing fragmin/protamine microparticles (PRP&F/P MPs). J Plast Surg Hand Surg. 2015; 49 (5): 268-274.

8. 瀧川恵美,山本直人. PRPによる育毛治療. 雑誌形成外科 2016; 59(9): 964-973.

1. 第1回 PRP(多血小板血漿)療法研究会(2009年11月15日 大阪)
2. 第15回 日本臨床毛髪学会学術集会(2009年12月12 - 13日 神戸)
3. 第19回 日本形成外科学会基礎学術集会(2010年9月16 - 17日 横浜)
4. 第40回 日本創傷治癒学会(2010年12月2 - 3日 東京)
5. 第29回 日本臨床皮膚外科学会・第16回日本臨床毛髪学会 合同学術集会(2011年2月25 - 26日 沖縄)
6. 第20回 日本形成外科学会基礎学術集会(2011年10月6 - 7日 東京)
7. 第17回 日本臨床毛髪学会学術集会(2012年11月22 - 23日 東京)
8. 第57回 日本形成外科学会総会(2014年4月9 - 11日 長崎)
9. 第33回 日本臨床皮膚外科学会総会(2015年3月27 - 28日 浦安)
10. 第16回 日本抗加齢医学会総会(2016年6月10 - 12日 横浜)